事務員でも競業避止義務は適用される?基本的に転職は自由ですが、場合によっては「競業避止義務」が課されることがあります。競業避止義務に違反すると損害賠償を請求されることがあり得ますが、私たちには職業選択の自由があります。では、どのような場合に競業避止義務が適用されるのでしょうか。
競業避止義務とは
競業避止義務とは、在職中又は退職後の従業員が、所属若しくは所属していた企業と競合する事業活動を行ってはならない義務をいい、就業規則や誓約書等で従業員に競業避止義務を課している企業は多い
上記は「新潟雇用労働センター」のウェブサイトからの抜粋です。
皆さんは会社の就業規則をご覧になったことがあるでしょうか?
(退職後の競業避止義務)
第53条 従業員のうち役職者又は企画・立案の職務に従事していた者が退職し、又は解雇された場合は、会社の秘密保全の観点から、会社の承認を得ずに離職後6ヶ月間は、日本国内において会社と競業する業務を行ってはならない。また、会社在職中に知り得た顧客や取引先と離職後1年間は、会社と競合する取引をしてはならない。
これは某企業が制定している就業規則の抜粋です。
このように会社の利益を守るために、退職後の一定期間、会社と競業する会社への転職や同業界での独立を制限するのが「競業避止義務」です。
この就業規則では「役職者又は企画・立案の職務に従事していた者」に限定されていますが、会社によってはこのような限定がされていない場合があります。
また、限定している場合でも「役職者」とはどのレベルをいうのか曖昧ではあります。
退職時誓約書
XXXX株式会社
代表取締役
XXXX 殿
私は 平成 年 月 日付けにて貴社を退職致しますが、貴社営業秘密情報に関して、以下の事
項を遵守することを誓約いたします。第1条(秘密保持の確認)
私は貴社を退職するにあたり、以下に示される貴社の技術上または営業上の情報(以下「秘密情報」という)に関する資料等一切について、原本はもちろん、そのコピー及び関係資料等を貴社に返還し、自ら保有していないことを確認致します。
① 商品仕入及び販売における企画、営業に関する資料、購入及び販売価格決定等の情報
② 財務、人事等に関する情報
③ 他社との業務提携に関する情報
④ 上司または営業秘密等管理責任者により秘密情報として指定された情報
⑤ 以上の他、貴社が特に秘密保持対象として指定した情報第2条(秘密の帰属)
秘密情報は、貴社に帰属することを確認致します。また秘密情報について私に帰属する一切の権利を貴社に譲渡し、その権利が私に帰属する旨の主張を致しません。第3条(退職後の秘密保持の誓約)
秘密情報については、貴社を退職した後においても、私自身のため、あるいは他の事業者その他の第三者のために開示、漏洩もしくは使用しないことを約束致します。第4条(競業避止義務の確認)
私は前条を遵守するため、貴社退職後5年間にわたり次の行為を行わないことを約束致します。
① 貴社 と競合関係に立つ事業者に就職したり役員に就任すること
② 貴社と競合関係に立つ事業者の提携先企業に就職したり役員に就任すること
③ 貴社と競合関係に立つ事業を自ら開業または設立すること第5条
口コミサイトやSNS に貴社を誹謗中傷するような書き込みをいたしません。第6条(損害賠償)
前各条項に違反して、貴社の秘密情報を開示、漏洩もしくは使用した場合、法的な責任を負担するものであることを確認し、これにより貴社が被った一切の損害を賠償することを約束致します。年 月 日
住 所
氏名 印
また、これは某企業で退職者に書かせている誓約書です。
第4条で同業他社とのへの転職等を禁止していますが、その期間は「退職後5年間」とされています。
競業避止義務はどのような場合に適用されるのか?
何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
憲法22条1項には上記のような規定があります。
職業選択の自由です。
裁判所は、無制約に競業避止義務を課すことを認めていません。具体的には、①守るべき企業の利益があるかどうか、②従業員の地位、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間、⑤禁止される行為の範囲に必要な制限がかけられているか、⑥代償措置が講じられているか等の諸要素を考慮して、競業の制限が合理的範囲内かどうかによって判断しています。
既出の「新潟雇用労働センター」のウェブサイトからの引用ですが、競業避止義務には数々のハードルがあることがわかります。
会社が一方的に就業規則で定めたり、従業員に誓約書を書かせたりしても、その内容がそのまま有効になるわけではありません。
競業避止義務を意識しすぎるとどうなるのか?
しかし、中には就業規則や誓約書の文面をそのまま受け取ってしまって、同業他社に転職してはいけない…と思ってしまう方もいるのではないでしょうか。
その場合、他業種の会社に転職することになるかと思います。
職種が事務員のまま変わらないとしても、他業種で未経験採用となると給与等の待遇面でも不利になるのではないでしょうか。
また、転職が少なければ良いですが、転職が多く、かつ競業避止義務を意識して他業種への転職を繰り返していると…
「あなたは何を目指しているのですか?」
というふうに面接官に訊かれてしまうかもしれません。
私がそうだったのですが、
「競業避止義務があるので、転職の際には業界を変えてきました。」
というように正直に話しても、
「事務員に競業避止義務はないよね?」
と反応されることがありました。
まとめ
競業避止義務が適用されるのはほんの一握りの場面だけです。
仮に就業規則や誓約書に規定されていても、法的には無効の場合が多々あります。
必要に応じて、弁護士や社会保険労務士、労働基準監督署等に相談して対応するとよいでしょう。
くれぐれも、会社の文書を真に受けて、ご自身のキャリアを狭めてしまわないようにしたいものです。



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